発信時間 : 2017年03月30日20時22分 木曜日
籠池氏「偽証」動かぬ証拠 振込用紙に「疑惑の筆跡」….
自民は「辻元問題」で反転攻勢へ
学校法人「森友学園」(大阪市)の籠池泰典理事長が、「偽証罪」に問われる可能性が高まってきた。「安倍晋三首相側からの100万円寄付」証言をめぐり、自民党や一部メディアが郵便局の振込用紙の筆跡鑑定をしたところ、籠池氏の主張がほぼ崩れたのだ。妻の諄子(じゅんこ)氏のメールに名前が登場した民進党の辻元清美衆院議員についても、与党では調査を進めている。
大きく潮目は変わり、特捜部への刑事告発も見えてきた。 ジャーナリストの山口敬之氏が独走リポートする。
「偽証罪に問われる証人喚問だからこそ、籠池氏は真実を語っている」という論理が、音を立てて崩れつつある。
衆参予算委員会で23日に行われた証人喚問を精査した結果、いくつもの矛盾点が指摘され始めた。
中でも、注目されるのは「疑惑の筆跡」だ。
籠池氏は証人喚問で、「(安倍昭恵首相夫人は)寄付金として封筒に入った100万円をくださった」と証言した。
その傍証として、籠池氏側から提示された、郵便局の振込用紙(振替払込請求書兼受領証)が極めて怪しいのだ。
参院の山本一太予算委員長の質問に答える形で、籠池氏は、(1)学園の職員が振込人欄に「安倍晋三」と書いて郵便局に持参した(2)(郵便局に『安倍晋三の名前では無理だ』と指摘され)職員が最初は「匿名」、次に「(学)森友学園」と修正テープを使って消し(入金し)た-など証言した。
ところが、複数の筆跡鑑定人が詳細に検証したところ、当該文字のうち「安倍晋三」と「匿名」は、籠池氏の妻で副園長を務める諄子氏の筆跡である可能性が90%という結果が出たのである。
もちろん筆跡鑑定は万能ではないが、他の物証や証言などで「郵便局で処理をしたのは諄子氏」ということが証明されれば、籠池氏の証言はさらに信憑(しんぴょう)性を失うことになる。
もう一つ、自民党が注目しているのが、「安倍晋三記念小学校」名での寄付金集めだ。
安倍首相は、籠池氏の「名前を使用したい」とする依頼を明確に拒否している。にもかかわらず、籠池氏側が勝手に名前を使用して寄付金を集めていたことは、数々の物証と証言で明らかになっている。
籠池氏は23日午前の参院での証人喚問で「安倍晋三記念小学校」名で寄付金集めを行った期間について、「ほんの一時、1日、2日だけ」と答えた。ところが、午後の衆院での証人喚問では「衆院議員の時期の一瞬だ。ほんとに短い、5カ月ぐらい」と大幅修正した。
5カ月が一瞬かというのは、もはや陳腐な問いだ。問題は「衆院議員時代」という証言だ。注目されている2015年9月の振込用紙には、「安倍晋三記念小学校」用の寄付金口座であることが、印刷で明記されている。
つまり、安倍首相が第2次安倍内閣を発足させた12年12月から、少なくとも2年9カ月にわたって寄付金集めに「安倍晋三」の名前を使っていたと受け取れるのだ。
これは冒頭の振込手続きとともに、「証人喚問で意図的に虚偽の証言をした」として、議院証言法で「偽証罪」に問われる可能性がある。
さらに、「安倍晋三記念小学校」という名前にひかれて献金をした人物が名乗り出れば、人を欺いて現金を詐取したとして「詐欺罪」も十分成立する展開があり得る。
森友学園が、国(国交省)と大阪府、関西エアポートに、建設費の金額が異なる3種類の契約書を提出した問題も、虚偽申告や公文書偽造の罪に問われる可能性がある。
籠池氏側は現在、「偽証」「詐欺」「虚偽申告」 などの刑事事件に発展する崖っぷちに立たされた。
自民党側は、籠池証言を徹底的に検証して、証拠集めを進めている。そして、有力な物証と証言が集まっているという情報がある。
防戦一方だった与党側が勢いづいているのは、籠池証言だけではない。民進党の辻元氏をめぐる、疑惑が浮上したことも大きい。
諄子氏から、昭恵夫人に送られたメールの中に、「辻元清美が幼稚園に侵入しかけ」「辻元と仲良しの関西生コンの人間」「国会議員の犯罪じゃないですか」などの記述があるのだ。
辻元氏と民進党は「そのようなことは一切なく」「全くの事実無根」などと全否定している。
自民党側は現在、森友学園が認可申請を取り下げた小学校予定地に隣接する豊中市の「野田中央公園」をめぐる国有地払い下げ問題に注目し、調査を始めている。約14億円の土地評価額にもかかわらず、市の負担が約2000万円にまで圧縮されていたのである。
多額の補助金や交付金などが支出されたためだが、同公園の整備について審議した豊中市市議会の議事録(2010年10月12日、建設水道常任委員会)には、委員の以下のような発言がある。
「(公園用地を)2124万3000円の一般財源で購入することができたと、夢みたいな話でございますが、これはどういうかげんでタイミングよくこうなったかわかりませんけれども、政権かわったからこうなったかどうかわかりませんが」
「政権かわったから」とは、2009年9月の民主党政権誕生を指しているようだ。辻元氏は鳩山由紀夫内閣で、国交副大臣を務めていた。
ともかく、諄子氏のメール公開を受けて、民進党の玉木雄一郎幹事長代理は26日、自身のツイッターで「明日午後、(辻元氏)本人が公式に記者会見する予定です。逃げも隠れもいたしません」と発信していた。だが、辻元氏の27日の記者会見は実現しなかった。
一連のことで、自民党側は2つの認識をした。
「昭恵夫人を証人喚問すべきだ」と要求している民進党に対し、与党側が「辻元氏も証人喚問に応じるべきだ」と正式に要求をした場合、民進党はどう対応するのか。
そして、最も重要なのは、民進党が「諄子氏の発信はデマだ」と言っていることだ。これまで、民進党中心の野党は、籠池夫妻の証言をほとんど唯一の根拠に、安倍首相夫妻への攻撃を仕掛けてきた。その民進党が、籠池夫妻の証言の信憑性を自ら毀損(きそん)したのである。
永田町では、与党だけでなく、民進党内にも「籠池氏の偽証疑惑」と「辻元問題」が、森友問題の構図を少しずつ書き換え、「攻守所を変えつつある」という見方が広がっている。防戦一方だった官邸も、反転攻勢の機会をうかがっている。( 山口敬之 )
—終わり—